はじめに
こんにちは!
今回は、2026年1月に実施された第38回整形外科専門医試験(筆答試験)の問21〜30をピックアップして解説します。専門医試験の過去問は、単なる暗記ではなく「臨床の基本の型」を叩き込むための宝庫です。若手整形外科医の皆さんが外来や病棟、当直帯で明日からすぐに使える知識と紐付けて、サクサク読めるブログ形式でまとめました。
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2026年 整形外科専門医試験 過去問解説(問21〜30)
問21:手術器具・機器の取り扱い
問21 手術器具・機器について正しいのはどれか。
a 平のみをまっすぐに進めるには片刃(chisel)より両刃(osteotome)が適している。
b スチールバーはダイヤモンドバーより軟部組織を損傷する危険性が低い。
c 空気止血帯を用いる手術では、加圧直後に抗菌薬を投与する。
d 関節鏡での観察範囲は直視鏡の方が斜視鏡より広い。
e Cアーム型透視装置は手術台の上にX線管球を設置する方が外科医の被曝が少ない。
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正答:a
- a(正): 両刃(osteotome)は左右均等にテーパーがかかっているため、叩いた力がまっすぐに伝わり、骨を直線的に切り進めるのに適しています。一方、片刃(chisel)は刃の傾斜がある側へ逃げる性質があるため、骨皮質を薄く削ぐ際などに使われます。
- b(誤): スチールバーは骨切り用の大きな刃を持っているため、軟部組織を巻き込んで損傷する危険性が高いです。ダイヤモンドバーは骨を削るための微細な粒子なので、軟部組織を比較的傷つけにくい性質があります。次回手術前にバーの先端を見比べたら違いがはっきり分かると思います。
- c(誤): 術前の予防的抗菌薬は、組織内濃度を十分に高めるため、止血帯(ターニケット)を加圧する前に投与を完了しておく必要があります。
- d(誤): 斜視鏡(30度や70度)は、関節内でカメラを回転させることで、直視鏡よりも圧倒的に広い範囲を観察できます。
- e(誤): Cアームを使用する際は、X線管球を術台の下(受像部を上)に配置する方が、床方向へ散乱線が逃げるため、外科医の頭部・上半身への被曝が大幅に少なくなります。
問22:化膿性関節炎の臨床
問22 化膿性関節炎について正しいのはどれか。2つ選べ。
a 骨性強直をもたらすことはない。
b 乳幼児期では偽性麻痺が特徴的である。
c 関節破壊の速度は関節リウマチより遅い。
d 乳幼児期の股関節では病的脱臼がみられる。
e 炎症鎮静化後でも人工関節置換術は禁忌である。
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正答:b, d
- b(正): 乳幼児の化膿性関節炎(特に股関節)では、激痛のために患肢を全く動かさなくなる「偽性麻痺(pseudoparalysis)」が非常に重要なサインです。
- d(正): 乳幼児の股関節は関節包が緩いため、膿汁が溜まって関節内圧が高まると、容易に病的脱臼を引き起こします。軟骨破壊と脱臼を防ぐため、見つけたら緊急排膿(穿刺・洗浄)の適応です。
- a(誤): 軟骨破壊が完全に進行すると、最終的に骨同士がくっつく「骨性強直」をきたします。
- c(誤): 細菌や好中球から放出される分解酵素により、関節リウマチ(RA)よりもはるかに急速(数日単位)に関節が破壊されます。
- e(誤): 炎症が完全に鎮静化し、再燃の兆候がないことを確認できれば、後遺症期の機能再建として人工関節置換術を行うことは可能です。
問23:化膿性脊椎炎・硬膜外膿瘍
問23 77歳の女性。1か月前に38℃台の発熱と腰痛が出現し、その後徐々に腰痛が増悪したため受診した。体動時に腰痛があり、腰椎棘突起の叩打痛を認めた。四肢に感覚障害や筋力低下は認めず、深部腱反射も正常であった。体温37.2℃、脈拍72/分、血圧142/86 mmHg。血液所見:赤血球391万、Hb 9.9 g/dL、血小板9.9万、白血球5,800、好中球71.4%。血液生化学所見:AST 16 U/L、ALT 15 U/L、γ-GT 61 U/L(基準9〜32)、尿酸 3.2 mg/dL、クレアチニン 0.54 mg/dL、HbA1c 7.2%(基準4.9〜6.0)、CRP 5.20 mg/dL。併存症:糖尿病、狭心症。既往症:腸重積、十二指腸潰瘍。来院時の腰椎MRI T1強調・T2強調矢状断像を示す。正しいのはどれか。2つ選べ。
a 硬膜外膿瘍を認める。
b 手術療法が原則である。
c 放射線照射は有用である。
d 腹部や骨盤の病巣検索を要する。
e 培養検体採取前に抗菌薬投与を開始する。
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正答:a, d
画像・病態の把握: T1強調像で輝度が低下し、T2強調像で高輝度化している椎間板・椎体変化に加え、脊柱管内に硬膜嚢を前方から圧迫する塊(硬膜外膿瘍)が確認できます。高齢・糖尿病(HbA1c 7.2%)という易感染性の背景とも一致します。
- a(正): 脊柱管内に硬膜嚢を圧迫する後方への突出があり、硬膜外膿瘍を認めます。
- d(正): 化膿性脊椎炎は血行性感染が主体であるため、泌尿器系感染(尿路感染)や腹部・骨盤内膿瘍、感染性心内膜炎などの原発巣(フォーカス)の検索が必須です。
- b(誤): 進行性の運動麻痺や膀胱直腸障害といった重篤な神経症状がない限り、まずは厳重なベッド上安静と抗菌薬投与による保存治療が原則です。
- c(誤): 放射線照射は転移性腫瘍などに対する治療選択肢です。
- e(誤): 適切な抗菌薬を選択するため、抗菌薬を投与する前に血液培養や穿刺吸引による検体採取を行うのが鉄則です。
問24:結核性関節炎
問24 結核性関節炎について正しいのはどれか。2つ選べ。
a 下肢より上肢に多い。
b 結核菌感染の診断にはインターフェロン遊離試験が有用である。
c 関節液は血性である。
d 早期単純X線像で関節裂隙は狭小化する。
e 診断後は直ちに保健所に届け出る。
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正答:b, e
- b(正): 結核菌感染の診断には、インターフェロン遊離試験(IGRA:T-SPOTやクオンティフェロン)が非常に有用で、ツベルクリン反応に代わる主役となっています。
- e(正): 結核は感染症法における「二類感染症」に指定されているため、診断した医師は直ちに(24時間以内)最寄りの保健所に届け出る義務があります。
- a(誤): 上肢よりも、荷重関節である下肢(股関節や膝関節)に多く発症します。
- c(誤): 関節液は一般に黄色〜黄白色の漿液性・混濁液です。
- d(誤): 結核は化膿性感染に比べて軟骨破壊が緩徐なため、初期の単純X線では関節裂隙が比較的保たれ、周囲の骨萎縮(Phemisterの3徴)が目立ちます。
問25:抗MRSA薬(バンコマイシン)の予防投与
問25 骨・関節術後感染に対する抗MRSA薬(バンコマイシン)の予防投与について、誤っているのはどれか。
a 保菌者に対して行う。
b 易感染性症例に対して行う。
c 鼻腔などの除菌と併用する。
d MSSAに対する抗菌力も十分ある。
e TDM(therapeutic drug monitoring)が必要である。
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正答:d(誤っているものを選ぶ)
- d(誤): バンコマイシン(VCM)はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の特効薬ですが、MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)に対する抗菌力(殺菌活性)は、第1世代セフェム系(セファゾリンなど)に劣ります。したがって「MSSAに対しても十分」とは言えず、これが誤りです。
- a, b, c(正): 術前スクリーニングでMRSA保菌が判明している症例や、人工物(インプラント)を用いる易感染性の高い手術では、術前予防投与としてVCMが選択肢となり、鼻腔ムピロシンによる除菌と併用されます。
- e(正): VCMは腎毒性・耳毒性のリスクがあるため、血中濃度モニタリング(TDM)によるトラフ値の管理が必要です。
問26:Crowned dens syndrome(軸椎歯突起周囲ピロリン酸カルシウム沈着症)
問26 Crowned dens syndromeについて誤っているのはどれか。
a 高齢女性に好発する。
b 主症状は急性の頚部痛である。
c 診断には頚椎単純CTが有用である。
d 治療の第一選択はグルココルチコイドである。
e 頚椎歯突起周囲にピロリン酸カルシウム結晶が沈着する。
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正答:d(誤っているものを選ぶ)
- d(誤): 治療の第一選択はNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)です。劇的に効くことが多く、ステロイド(グルココルチコイド)はNSAIDsが使用できない場合や無効な場合の二次選択肢です。
- a, b(正): 高齢女性に好発し、突然発症する激しい頚部痛、発熱、CRP上昇を呈するため、一見「化膿性髄膜炎」や「高位頚椎の化膿性脊椎炎」と誤認されやすい病態です。
- c, e(正): いわば「偽痛風の頚椎版」であり、歯突起周囲の靭帯にピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶が沈着します。頚椎の単純CT(軸位断)で歯突起を王冠のように取り囲む石灰化(Crowned dens)を確認することが診断のゴールドスタンダードです。
問27:メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)
問27 72歳の女性。6週間前から続く発熱と頚部のしこりを主訴に来院した。関節リウマチで5年前からメトトレキサート、グルココルチコイド、NSAIDを使用している。血液所見:赤血球315万、Hb 10.5 g/dL、Ht 34%、白血球3,100、血小板14万。血液生化学所見:総蛋白 6.4 g/dL、アルブミン 3.2 g/dL、AST 26 U/L、ALT 25 U/L、LD 825 U/L(基準120〜245)。免疫血清学所見:CRP 2.2 mg/dL、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-3 256 ng/mL(基準17.3〜59.7)、抗核抗体陰性、可溶性IL-2受容体 2,560 U/mL(基準122〜496)、結核菌特異的全血インターフェロン遊離測定法陰性。CT検査で顎下リンパ節の腫大を認めた。まず行うべき対応はどれか。
a 抗菌薬の投与
b TNF阻害薬の投与
c 抗ウイルス薬の投与
d メトトレキサートの中止
e グルココルチコイドの中止
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正答:d
病態の把握: RA患者がメトトレキサート(MTX)治療中に、発熱やリンパ節腫大をきたし、腫瘍マーカー的な挙動を示す可溶性IL-2受容体(sIL-2R)が2,560 U/mLと著明に高値を示しています。これは典型的なMTX-LPD(Methotrexate-associated Lymphoproliferative Disorders)の病態です。ほかに、体重減少を伴うことがあります。
- d(正): MTX-LPDを疑った場合、まず行うべき対応は「メトトレキサートの中止(休薬)」です。これだけで約7割の症例において、リンパ節腫大などの病変が自然退縮(regression)に向かいます。まずは休薬して経過を見て、改善しなければ生検や悪性リンパ腫に準じた化学療法を検討します。
問28:初期関節リウマチ(RA)の診断アプローチ
問28 45歳の女性。2週間前から続く両側の手関節痛を主訴に来院した。両手関節X線検査では異常を認めなかった。血液所見:赤血球336万、Hb 12.3 g/dL、Ht 36%、白血球3,400、血小板25万。血液生化学所見:総蛋白 6.1 g/dL、アルブミン 3.0 g/dL、AST 18 U/L、ALT 19 U/L、LD 195 U/L(基準120〜245)。免疫血清学所見:CRP 0.1 mg/dL、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-3 121.3 ng/mL(基準値:17.3〜59.7)、リウマトイド因子 55 IU/mL(基準値:15以下)、抗シトルリン化ペプチド(CCP)抗体 113.2 U/mL(基準値:4.5未満)、抗核抗体陰性。診断のために次に行う対応はどれか。
a 経過観察
b 関節の視触診
c 関節MRI検査
d 関節超音波検査
e 関節滑膜生検
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正答:b
- b(正): 免疫学的マーカー(RF、抗CCP抗体)が強陽性、MMP-3も高値であり、RAの可能性が極めて高いデータです。しかし、2010年ACR/EULARのRA分類基準を満たすためには、「少なくとも1つ以上の関節で、臨床的に明らかな滑膜炎(圧痛・腫脹)」が確認されなければなりません。データだけで診断を下すのではなく、まず基本に立ち返り、自分の手で患者の関節を触る(関節の視触診)のが、臨床医として次に取るべき絶対的なステップです。
- c, d: 視触診で滑膜炎がどうしても評価しにくい場合の補助診断として関節エコーやMRIに進みますが、順序としては身体所見が先になります。
問29:メトトレキサート(MTX)の管理
問29 関節リウマチに対するメトトレキサート治療について、正しいのはどれか。
a 連日投与する。
b 内服製剤しかない。
c 妊娠中も使用できる。
d 胸水を有する患者では禁忌である。
e 結核のスクリーニングが必要である。
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正答:e
- e(正): MTXは免疫抑制作用を持つため、潜在性結核が活動化するリスクがあります。投与開始前には必ず、胸部レントゲン/CT、およびIGRA(インターフェロン遊離試験)による結核スクリーニングが必要です。
- a(誤): MTXは「週1回(または特定の2〜3日間に分割)」投与する間欠投与が原則です。誤って連日服用すると、重篤な骨髄抑制や消化管潰瘍を引き起こし致命的になります。
- b(誤): 現在では、自己注射が可能な皮下注射製剤(メトジェクト)も広く臨床で使用されています。
- c(誤): 強力な催奇形性があるため、妊婦への投与は絶対禁忌です。
- d(誤): 胸水や腹水(サードスペース)があると、そこに高濃度のMTXが貯留して排泄が遅れ、毒性が強まるリスク(慎重投与)はありますが、絶対的禁忌ではありません。
問30:血友病性関節症(Hemophilic arthropathy)
問30 8歳の男児。右股関節痛を主訴として5年ぶりに来院した。来院時の両股関節単純X線正面像と生後9か月時の両股関節 MRI T2強調水平断像を示す。左肘、右足関節にも可動域制限を認めた。最も考えられる疾患はどれか。
a Perthes病
b 単純性股関節炎
c 血友病性関節症
d 若年性特発性関節炎
e 化膿性股関節炎後遺症
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正答:c
病態の読み解き:「生後9か月時(ちょうどハイハイや伝い歩きを始めて関節に負荷がかかり出す時期)」に、股関節のトラブルでMRIを撮影されています(おそらく関節内血腫の像)。その後、成長に伴って負荷のかかる左肘や右足関節など、全身の複数の大関節に可動域制限(関節症変化)をきたしています。
- c(正): このように、乳幼児期から始まり、全身の様々な関節で微細な関節内出血を繰り返して多発的な関節破壊をもたらす病態は、血友病性関節症に合致します。
- 他選択肢: Perthes病(a)や単純性股関節炎(b)は、基本的に「股関節単剤」の病態であり、肘や足関節など多関節の可動域制限を同時に説明することはできません。
まとめ
いかがでしたでしょうか?問21〜30は、化膿性関節炎・結核性関節炎・化膿性脊椎炎といった感染症の鑑別と、関節リウマチに対するメトトレキサート関連の管理(MTX-LPDの認識、結核スクリーニング、催奇形性)が中核テーマでした。専門医試験の問題は、日々の外来でのアプローチや、オペ室での安全管理、全身のフォーカス検索など、明日からの臨床に直結するエッセンスが詰まっています。
これからも医療現場の生産性を高める知識や、専門医試験対策のTipsを発信していきます。
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