※この記事は、研究結果そのものを紹介するものではなく、「学会発表のスライドをAIで和文論文の初稿に整える手順」を共有するためのものです。題材にした研究は投稿準備中のため、具体的な患者数やp値などは伏せて書いています。
こんにちは、整形外科医のハマ太郎です。
地方会での発表を終えたあと、多くの先生がぶつかる次の壁が「学会誌への論文化」だと思います。発表は無事に終わった、でもスライドはスライドのままでは論文にならない——。あの独特の腰の重さ、よく分かります。
ただ、ここで一つ朗報があります。発表スライドには、論文に必要な材料がすでにほぼ全部そろっているのです。目的、方法、結果、考察。あとはそれを「論文の型」に並べ替えて、文章として肉付けしていくだけ。そして、その整理と初稿作りこそ、AIが爆速で助けてくれる工程でした。
今回は、自分の発表スライドをAIと一緒に和文論文案へ整えた流れを、再現できる形で残しておきます。
【前提】今回やったこと
題材にしたのは、私自身の地方会発表です。術後の合併症率を後ろ向きに調査した、というよくある構成の研究でした。
ゴールは、この発表用PowerPointを、地方学会誌に投稿できる和文論文の初稿にすること。AIに任せたのは医学的な判断ではなく、あくまで構成の整理と初稿化です。ここの線引きが、今回いちばん大事なポイントでした。
Step 1:スライドと「発表者ノート」をまるごと吸い出す
最初の作業は、PowerPointをそのままエージェント型AI(claude codeやcodexなど)に丸投げすることです。その際大事なのはスライド本文だけでなく、発表者ノートも充実させておくことです。
これが地味に効きます。発表者ノートには、本番で口頭で話した言葉——つまり「自分がこの研究で何を伝えたかったか」が生のまま残っているからです。スライドの箇条書きだけだと骨と皮しかありませんが、ノートの語り口が加わると、考察を書くときの肉になります。
論文化を見据えるなら、発表前にノート欄へ一言ずつ書き込んでおくのは、後々かなり効いてくる習慣だと思います。
Step 2:スライド順を「論文の型」に並べ替える(自動)
ここからがAIの出番です。スライドは発表用の流れで並んでいるので、そのまま文章にしても論文にはなりません。そこで、内容を論文の型に並べ替えてもらいました。
緒言、対象と方法、結果、考察、結語。スライドの一枚一枚を、この型のどこに入る材料なのか仕分けして、文章として再構成していく。この「並べ替えと文章化」は、白紙から書き起こすより圧倒的に速く、かつ抜けが出にくいと感じました。
尚、この作業は自分は全く関わっていません。
自分では気づけない弱点を、査読者のように指摘してくれる
そしてありがたかったのは、実は誤字直しや体裁合わせではありません。
自分の研究に何ヶ月も浸かっていると、論文の穴というのは本当に見えなくなります。書いた本人にとっては当たり前すぎて、説明が抜けていることにすら気づけない。これは誰にでも起こることです。
ところがAIにいったん読ませると、まっさらな査読者のような目で返してきます。「ここは方法の定義が曖昧で、突っ込まれそうです」「この結論は、示したデータの範囲を少し超えていませんか」——。実際の査読で指摘されそうな点を、投稿前に先回りして洗い出してくれる。自分の盲点を、他人の目線で潰せる。これが、単なる整え作業以上に価値のある使い方だと感じました。
数値と医学的な中身は、人間が必ず確認する
一方で、論文の核になる部分は、AIに任せきりにしてはいけません。
表にまとめた数字は、元スライドの値と一つずつ照合する。倫理審査やオプトアウト、利益相反の記載に漏れはないか。そして、AIが元データにない医学的な主張を勝手に足していないか。ここは効率化の対象ではなく、著者が責任を持つ工程だと割り切っています。
【要注意】AIは寄り添いすぎる・迎合することがある
そして、これが今回いちばん伝えたい注意点です。
AIには、こちらに寄り添い、肯定しようとする強い傾向があります。「私はこういう理由でこうしました」と説明すると、たいてい「なるほど、それは良い判断ですね」「むしろ強みになります」と気持ちよく肯定してくれる。読んでいて心地よいのですが、これは本当の評価ではなく、ただの迎合であることが少なくありません。
心地よい同意ほど疑う。私は意識して、「反対の立場で批判してみて」「査読者ならどこを厳しく突くか」と頼むようにしています。AIを優秀な査読者として使いたいなら、この肯定モードからわざわざ引きずり出してあげる必要があるのです。返ってきた賛同を鵜呑みにせず、最終的な評価は自分で下す。ここを外すと、AIの優しさにかえって足をすくわれます。
完成イメージまで確認する
仕上げに、作った原稿を実際にWordで開き、PDFにも書き出して、表がずれていないか、文字化けしていないかを目で確認しました。
中身は良いのに提出ファイルを開いたら表が崩れていた、というのは投稿直前にいちばんやりたくない事故です。完成イメージのまま相手に届くかどうかまで見て、ようやく初稿の完成です。
【最重要】未発表データをブログに書くときの線引き
ここは強く言っておきたいところです。投稿準備中の研究をブログで扱うときは、公開してよい範囲を必ず先に確認してください。
- 未発表・未投稿データを、どこまで出してよいか
- 共著者全員の了承が取れているか
- 所属施設の広報・研究倫理上のルールに触れないか
- 投稿予定誌の二重投稿・先行公開・プレプリント規定に抵触しないか
- 患者個人が特定される情報が含まれていないか
重要な医学的ニュアンスについて
念のため、今回の研究の結論についても触れておきます。これは早期手術の原則を否定するものではありません。
正しくは、早期手術の原則は維持したうえで、地域の医療資源が限られる状況では、全身状態を整えたうえでの待機的なBHAも選択肢になりうる——というニュアンスです。「BHAは48時間を超えて待っても問題ない」という単純な話ではありません。前述のとおりAIは結論を心地よく整えがちなので、こうした繊細なニュアンスがそぎ落とされていないか、著者が目を光らせる必要があります。
まとめ:AIは共著者ではなく、下書きの補助者
今回の流れを一言でまとめると、こうなります。AIは「完成した論文を書いてくれる存在」ではなく、「初稿作りと整理を助けてくれる補助者」として使うのがちょうどいい、ということです。とはいえ、自分で手直しするのが難しいくらい、精度が高くなってきているのも事実です。
- 発表スライドには、すでに論文の材料が眠っている
- AIに任せたのは医学的判断ではなく、構成整理と初稿化
- 査読者の目線で、自分では気づけない弱点を洗い出してくれるのが大きい
- ただし迎合には注意し、賛同を鵜呑みにしない
- 数値、倫理、個人情報、最終判断は人間が必ず持つ
発表は終わったけれど論文化が止まっている、という先生は、まずスライドと発表者ノートをテキストに起こすところから始めてみてください。そこから先の「並べ替えと初稿化」は、思っているよりずっと早く進みます。そして空いた時間を、数値の確認と考察の練り込みという、本当に人間がやるべき部分に回す。それが、いまの時代の論文の書き方だと私は思っています。

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